喰うなら喰やれ 挿話乃弐 『誕生』


「で、情けをかけたってこと?」
 族長が表情の読めない顔でそう聞いてきた。
「そう、なっちゃうんでしょうね」
「ふーん、喰わせちゃったんだ」
「逃げられませんよ、あれじゃ。たぶん、食べさせなかったら殺されてから喰われてました。片足だけであれならそれも簡単にやりかねませんでしたね。それ以外にも口には出せないようなすごいことされてました」
 どうせ傷は治るんだし、と心の中で呟いた。
「そうすると、彼も仲間、か」
「そうなりますかね、まだ死なないんですから」
「生きてたら、責任はとってもらうよ」
「わかっています」
 責任…婚儀を交わす、ということだ。
「好き好んで、彼とそうなるわけではないですが」
「…好きなくせに」
「何か、言いましたか」
「ん?何のことだい」
 この人は…どうしてこうなんだろう。
「で、今、彼はどうしてるんだい」
「あぁ、それでしたら…」


 熱い。いや寒い。むしろ何も感じない?感覚がおかしい。感覚器官全てがどうかしたらしい。
 いや、それだけで済む話だろうか?
 思考がいやにクリアだ。
 俺は今までこんなに考えたことがあっただろうか。
 こんなに?どんなにだ?大したことを考えたのか?
 ただ、体がおかしい。それだけだ。それだけで俺が崩れるだろうか。
 俺って何だ。
 何って何だ。
 俺はそもそも何で此処に居る。
 居るとは何だ。
 在ると謂う事か。
 在るとは何だ。
 そもそも何故俺は此処に在る。
 駄目だ、思考に纏まりが無い。
 無いとは何だ。
 何故無い。
 纏まりとは何だ。
 駄目とは何だ。
 何とは何だ。
 此処は何だ。
 思考とは何だ。
 何故とは何だ。
 在ると無いとは何が違う。
 居ると居ないと謂う事か。
 纏まりが見得て来た。
 死んで居ない。
 生きて居る。
 其は好き事。
 為らば目覚めよう。
 今が其の時だ。


「あ、起きた」
「…毒は喰わんぞ」
「…覚えてた?」
「勿論だ」
「ちっ」
 起きやがった。このデカブツ。裂けるかと思ったんだぞ…いや、裂けたのか。まぁいいや。
「動けるよね。汗、随分掻いたみたいだけど」
「無理を言う」
「男がそう簡単にへこたれるな、鬱陶しいから」
「起きて何処へ行く」
「族長の所へ。報告だけはして。あなたは今日から私の夫だから。その後は何処へなりとも消えて頂戴。居るだけで迷惑」
「心得た」



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