喰うなら喰やれ 5-2

滔々と、狂ったトカゲは語る。
造られた最初の種、その長である男は『世界』のその可能性、
その絶大なる力の生み出す未来を。
トカゲは『万能』を旨として造られた種であった。ヒトを超えた種、
それを目指して造られた、最初の亜人。
竜人とヒトは呼ぶ。
亜人はトカゲと呼ぶ。
ヒトと袂を分かった他の亜人とは違い、
トカゲはヒトの傍に在った。
その知性と武力は、ヒトを亜人の脅威から守り、
他の亜人の反感を買うには十二分なものであった。
それ故に、ヒトに利用された。
トカゲとの連携による獣人狩りが成功に傾くにつれ、
ヒトはその領土を『森』を半分にすることに成功した。
明らかに亜人の力は落ちた。
そして、ヒトはトカゲを裏切った。
いくら優れた知性と力を持とうとも、ヒトの毒には勝てなかった。
獣人狩りに参加していた者には食事に。
集落で生活していた者には水源に。
そのとき、長はヒトとの話し合いの為に首都へ出向いていた。
長は死に損ねた。
そして今、語る。
『世界』を。
ようやく繋がった『世界』を。



長は、機を窺っていた。
ヒトに反旗を翻す、その機会を。
いくら同族とも呼べる獣達を狩ろうとも、その為には待つしかな
かった。
『世界』が繋がる、その時を。
そして、『世界』は繋がった。
獣達の決して聞こえぬ怨嗟の声を一身に受け続けたヒトの少女
を取り込み、『世界』はようやくその姿を彼の元へ現した。
長は既に狂っていた。


「アレは『世界』です。少なくとも私にとってはそう呼べる。ようやく
私は、自分を、竜人を超える種を造ったんですよ」
繋がったのは、どの世界かは知りませんがね、と心の中で付け
加えた。
大体、肉を、生肉を主食とし、いや、熱で変性前の人肉を変換さ
せてその血肉とする生物なんてものが、ろくなもののはずがない。
それにしても実験作がまだ生きているとは思わなかった。
いや、むしろあちらの方がまだましだったろうか。
精神は未だ人間のソレを保っている。
倫理は既に破綻しているであろうがね。
まぁ、無理も無いか。
花嫁があんな殺され方をされていれば。
フフフ、次に彼に会ったら真っ先に殺されるのは私かもしれませんね。
「全部…口に出ているぞ、トカゲ」
 ルガル爺が渋面で呟く。
「おや、失礼。どうも獣人の酒は強くていけない。いやいや、サリアに
聞かれていないのが幸いですね。アレは既に『世界』の下僕だ。
聞かれたら今度こそ殺される」
この件に関しては確信している。
足手まといでしかないアレを、ここまで連れて来る時点でおかしいのだ。
「それで…勝ち目はあるんだろうな」
「無きゃ来ませんよ、こんな森の中」
「死ね。我等の家を愚弄するな」
「ククク、サリアの口癖は貴方譲りですか。では、本題に入りましょう。
実はセントルーシカの城の中には亜人が居まして…」
 そのときだった。
 声が聞こえた。
 若い、いや、まだ幼さを残す声が新月の『森』に響いた。
 それは人の声だ。
 しかし、ヒトではない、獣人の遠吠え。
 聞き覚えのある、声。
「ちょっと計画が狂いましたかねぇ」
 杯に、酒はもう無かった。




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