喰うなら喰やれ 6-1




「女を知ったのはいつだ」
「ガキの頃です。僕は昔、家畜だってんで」
 相手はヒト、とは言わなかった。言わなくても通じた。
「其れは災難だったな。あんな小さなケツじゃ、お前は満足できなかったろう」
 焚き火の向こうの巨大な男はそう言うと、水筒に口をつけた。
「そうでもなかったですよ、子供でしたし。まぁ成長したらポイ、でしたけど。馬並みとは良く言ったもので」
「…裂けたのか」
「はい…裂けました」
 そう言うと、男は頭に手を当てて大笑いし、水筒を投げてよこした。栓をしてなかったので、少しこぼれた。中身は酒だった。強いばかりで安い酒。
「その後、先生に拾われて、どうにかこうにかパシリとして生きてきました。ひどいんですよ、あの人。無理な注文ばかりしてくるんですから」
「知っている。ウェインはそういう男だ、俺のときは―――」
 ささやかな酒宴は続く。ただ一人、『世界』以外の誰にも知られることの無いまま。
 セントルーシカに火の手が上がったのはその夜のことであった。




 階段を駆け上がり、目的の部屋へ一気に向かう。途中、何度も逃げる者達と肩をぶつけるが無視する。
 ユーリーン、我が愛しのユーリーン!怖がりな君は今もベッドに顔を埋めて、泣いているに違いない!
 今、僕が行くから。待ってて、待ってて、ユーリーン!
 男は目的の部屋に辿り着く。娼館の一角のその部屋のドアを乱暴に開け、最愛の人の名を叫ぶ。
「ユーリーン!大丈夫かい、ユーリー…」
 男の声は、最後まで響かなかった。
「あら、ごめんなさい。貴方だったのね。ゴメンね、気付かなくて。でも、今がベッドの中でなくてよかったじゃない。下を先に切られるより楽だったでしょ」
 眼下の生首に蹴りをくれ、窓から落す。さっきから五月蝿い悲鳴に、更に熱が帯びる。
 ユーリーンは窓から外を見た。
 忌まわしき街が火の海に沈んでいる。自分と似て非なる者達が恐怖に叫び狂っている。同時に遠くから響くのは同胞たちの声。
 この時を待っていた。『森』からヒトの棲家へ連れて来られ、力を封じられ、汚らわしいオスどもの相手をさせられて。それでも信じていた。それでも待っていた。いつか、この時が来るのを。
 ドアの方が騒がしい。さっき首を落したときに見られていたのか。いや、そうでなくともこの街に来る好事家の間ではあたし達は有名だったろうさ。なんたって、ヒトじゃないものね。
 ―――さぁて、お客さん。アンタはどんな風にされるのがお好みなんだい?優しく?それとも激しくしてみるかい?ちゃんと、最後まで相手をしておくれよ?あたしが満足するくらいには、ね―――。





 進め!進め!我等が同胞を陥れた豚どもを狩り尽くせ!!
 進め!進め!我等が生家を焼き滅ぼした死神を追い払え!!
 進め!進め!我等の誇りと力を愚かなる民に見せ付けろ!!
 進め!進め!進め!進め!進め!進め!―――――――――――――――




 亜人の行軍は止まらない。
 今や、竜人の遺した力は及ばない。
 種としての明らかなる亜人の優位がそこに在る。
 戒めを解かれた亜人達は変態することも無くヒトを狩る。
 そこに情けや容赦等という言葉は無かった。
 昨日までの隣人も、友人も、恋人も、親子も何も無い。
 ただ、亜人がヒトを狩った。
 そしてセントルーシカに生きるヒトは城の中に残るのみとなった。


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