喰うなら喰やれ 6-2


 突然の亜人の襲撃に、セントルーシカ市衛団は決して何もしなかったわけではなかった。
 市民の避難を最優先に、先鋒の部隊は既にセントルーシカから脱出。残る部隊は亜人の迎撃に当った。
 しかし奮闘空しく、街は既に亜人に占拠されていた。
 クリューカス、市衛団長は嘆息す。
 自分が今まで育ててきた街が、豊饒の土地に巣食う亜人を蹴散らし、未開の土地を切り拓き、その上に建てた自分の子供の如き街がこうも容易く崩れていくのは、見るに耐えなかった。そう、いくら分かっていたことだとしても。
 翼人、古来より時代の変革は彼の者が担ってきたらしい。勿論、人はそれさえ造った。まるで自分達が世界の全てを手にしたかの様に。そしてそれはまた人の傲慢により定められ、クリューカスが手を下す形で滅ぼされた。間違いなく、根絶やしにした。そして一度は消えたはずの翼人が帰ってきた。その時に、全ては決まっていたのだ。
 クリューカスの立つ大階段の下、ロビーの大戸が打ち壊された。鍵は最初から在って無いようなものだ。数度打った様な音も無く、一撃で砕かれた。
 破壊音と同時に複数の影がロビーに散っていく。
「ようこそ諸君、我が城へ」 
 刹那、クリューカスは数本の槍によって貫かれていた。
 血を吐き、数度痙攣し、クリューカスは動かなくなる。
 それを確認すると、クリューカスを貫いた槍を持つ者達はその獲物を抜こうとした。
 が、抜けない。
 幾度も試みる。
 だが、抜けない。
 男達の間に困惑が走る。
 すると、クリューカスが笑い出す。
「ふふふ、ふふふふふふ………」
 さも、楽しそうに。
 さも、狂おしげに。
 さも、懐かしげに。
「いや、ね。わかってても、痛いものなんですよ。毎度、毎度ね」
 クリューカスの体が膨張する。槍を掴んで離さない。男達は動けない。その膨張に巻き込まれる。いや、飲まれる。
 骨を砕く音。肺腑の底から漏れる呻き、叫び。それでも血の一滴さえ飛び散らせること無く、男達は肉の膨張に飲まれる。
 クリューカスと男達は、肉塊となった。
 そしてそれは徐々にクリューカスの元の形をとっていく。
「ふぅ。さて、久しぶりだが、うまくいったようだね。これで闘える」
 老闘士は剣を執った。
 




「バケモノ」
 仮面を着けたサリアが、クリューカスに言葉を発す。
「死ね」
 憎悪を、憤怒を、哀哭を、凡てをその一言に込めた。
「辛辣ですな、お嬢さん。しかし、今はその殺気が心地よい」
「言ってろ。死ぬのはお前だ。で、アンタがここの長か」
 ルガルがクリューカスの目だけを見て言う。他の獣人が、声を発せたサリア以外は、目の前の光景に動揺を隠せない中、ルガルは更に邪を吐いた。
「お互いに、議論の余地は既に無い。我等は我等の版図を返してもらいに来た」
 ルガルは腰溜めにこぶしを落す。が、
「ちょっと待ってください。二の舞になる気ですか」
 ウェインがそれを制す。
「見たところ、あの力ですね。まいったな、これじゃ手が出せない」
 双方、睨みあうこと数分。亜人側から声を出すものが在った。
「オヤジ、オヤジは人間、じゃないのか?」
 タクミであった。
「人間の定義が曖昧だ、タクミ。人間性、という言葉がある。人間らしさ、ということだ。理性で感情を抑え、時に感情が理性を越え、他人との繋がりつまり社会の中で生きていくということだ。もしお前のその問いが『種族はヒトなのか』ということならば、私はヒトではないな。そして今、ここに居る殆どがヒトではない。人間性があろうがなかろうが、だ。お前はどうしてそちら側に居るのだ。いきなり城から消えたと思ったら、彼に付いて行ったのか。捕虜のつもりかね」
「いや、それは違いますよ、クリューカスさん」
 カーシュが前に出た。
「僕はタクミに見て欲しかった。僕の生きた世界を。でないと、僕はタクミを殺すことをなんとも思わない価値観を受け入れなくてはならない」
「では、何故此処に君は居る。そんなに殺すのが嫌ならば、最初から戦わなければいい。村で待つ女子供と共に皆の帰りを待って居ればよかった。その様子だと、君は獣人の戦士らしからぬ行動をここに来るまでしてきたのだろうな。セントルーシカのヒトに情けをかけて」
「その通りさ。立ち向かってくる者も、逃げ惑う者も、全部生かした。いくら甘いと言われても、この街には恩義がある。そもそも貴方は獣人を誤解している。獣人は恩義を忘れない。タクミが生きているのもそのおかげだ」
「甘いな。だから獣人は負けていたんだ」
「負けるのは嫌だ。しかし、誇りを失うよりマシだ」
「誇りか、それを最初に捨てた者もお前たちの中には居るようだが、何か言いたいことはあるかね」
 ウェインは進み出た。
「では問おう!何故に貴方がたヒトはその内側からヒトに在らざる者を生み出し、その外側に生きた者達を虐げたのか!」
「言うまでも無い!ヒトの発展の為だ!それがヒトの脅威となるならば、それを打倒するのは自明の理!ヒトはそうして社会を、世界を築いてきたのだ!」
「そして貴方がたが、既にヒトに有らざる者達が、亜人を殺し、ヒトを統治する。そんな世界、認めるべくも非ず!どうやら本当に最初からルガル翁の言う通り、議論の余地なんてなかったようだ!我等はヒトに有らざる者を倒す!そして我等の世界を手に入れる!」
「果たして其れで、其れだけで良いのか!」
 声は、獣達の後方から響いた。
 ガイアであった。
「凡てを壊し、凡てを殺し、我等は亜人の世界を容易に手に入れることだろう。だが、其れで良いのか!其れだけで良いのか!」
 声は朗々と響いた。今や、セントルーシカの凡てであるこのロビーに。
「我は受け入れた!ヒトではなくなることを!我は受け入れた!亜人に成ることを!我は受け入れた!世界の其の手先と成ることを!生きとし生ける物凡ては、受け入れることが凡てだ!須く受け入れよ!他者を、他種を、そして何より自分自身を!もし、それが受け入れ難いものであれば、話せ!話して話して、話し尽くせ!議論を議論を!互いに罵声を上げ、互いに野次を上げ、罵倒し、愚弄し、在る限りの言語で罵りあえ!それでもそれが互いの理解を深めるのだ!」
 声は最早、世界に響いていた。それが、『世界』の役目。『世界』の真実。『世界』の在り方。
「それでも理解し合えぬ、混じり合うことのできぬ場合はどうするのだ、旧友」
 クリューカスはガイアの耳に焼き付けるような声で問うた。
「剣と剣が、ぶつかり合うだけよ」
 サリアがその問いに答えた。
「其の通りだ。だから我は闘う。我が旧友と。我が懐かしき世界と!生き残った方が凡てだ。敗者はただ、消え行くのみ!それが世界の選択だ!」
 そう言うと同時に、ガイアとサリアは疾る。
 死闘が、始まる。










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