喰うなら喰やれ 6-3

 「勝算は?」
 サリアが傍らの武人に問うた。
「光れ」
「…は?」
 間抜けな声がホールに響き渡った。
「その内に解る」
「アンタ、酒臭い。酔ってるんでしょ、ねぇ」
 ガイアは無表情に答えた。
「酔っている。だが、昔馴染みを殺さねばならんのだ。酒くらいは飲ませろ」
 言い終わると、槍を構え、
「続け」
 短く言い、突進。
 サリアはそれに従い、跳んだ。
 しばしの間、力学も化学も生物学も及ばぬ闘いが繰り広げられた。
 大質量の槍の一撃は、軽く剣にいなされた。
 大木をも砕く一蹴は、軽々と受止められた。
 投げ付けた大岩は、それに取り込まれた。 
 吹き付けた酒の炎も、火傷さえ負わせない。
 仕掛けトンファーの電撃さえ、功を奏すことは無かった。
 両人に増えたのは疲労と手傷のみ。
 冷酷無比な剣の一撃は確実に確実に、二人の動きを奪って行く。
 槍を、トンファーを握る腕の腱。
 全身の動きの基盤である、腹筋。
 傷の痛みは大したことではないが、流れ出る血が視界を封じる目の上方。
 確実に、確実に、二人は動けなくなって行く。


 
 「まずいな」
 ウェインは苦く呟く。
「どうすればいい」 
 参謀に問うはルガル翁。
「正直、勝てる見込みがありません。拠点防衛用とは言え、こんなバケモノが用意されていたとは知りませんでした」
 知識に無い。いや、理解していなかった。ヒトが自分たち竜人を切り捨てた理由を。自らの種としての優位を、ウェインは常に確信していた。しかし、それはこの瞬間に覆された。
 ヒトは、竜人を超えるものを造ったのだ。それはヒトに成り代わり、この帝国を支配した。ただ、ウェインはそれを自身より下等な生物であると思っていた。しかし、現実は違った。確かに、それは優越種だ。今や亜人側の通常戦力としては最強の二人を子供扱いしている。

この闘いに自分が突っ込んでも、邪魔なだけだ。実際、周りもそれを理解していて、誰も手を出さない。いや、出せない。出せない?この僕もか?いや、それは有り得ない。
 前言を撤回しよう。アレは劣等種だ。いや、種ですら無い。実際、アレは遺伝を見せていない。タクミは普通の人間だ。彼は単に、後天的に処置をされてああなったに過ぎない。では、彼は何者か。ヒトだ。ヒトに我が、竜人が負けるはずなどない。この無駄に動く頭と舌は何の為に在る。負けるためでは有り得ない。勝つ為だ。勝つ為には何をすればいい?相手の分析、自方の戦力との対比。弱点を探る。いくらでもある。
「ならば五分。あと五分持たせてください!そうすれば何か…何か、思いつく…かもしれません」
 




 発言の最後のほうは聞こえなかった。いや、聞こえなかったことにする。
 今は、ただ目の前の敵に集中する。
 腕はトンファーごとざっくりと切られ、使い物にならない。
 目はだらだらと流れてくる血で、片方しか見えない。
 足はなんとか大丈夫、まだいける。
 それにしても、なんでアタシは闘いにこんなに夢中になっているのか。周りには男供が山ほど居る。なのに、アタシが闘っている。アタシってなに?
 獣人。それでいて、最強。天才。いや、その前に大前提として、大きな大きなものがあった。アタシは乙女だ。花も恥らうお年頃だ。それを、アイツは傷付けた。こんなに切り傷を付けた。あまつさえ、顔にまで。許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない―――殺す!!



 サリアが跳んだ、不用意に。火が点いたように。その目は既に正気を失っていた。触手が迫る。飲み込まれれば、終わりだ。ガイアは叫んだ。
「光れ!」
 その声が届いたのか、それは分からない。ただ、事実として、サリアが光を纏った。肘から先が動かぬ腕を無茶苦茶に振り回し、蹴り上げた足は空を切った。しかし、その光を浴びた彼の怪物はその部位の細胞を朽ちさせた。後退する怪物。その動きは明らかに鈍っている。
 ガイアはそれを見逃さなかった。一瞬の隙を突き、おそらく心臓があるであろう部位を貫いた。そして、踊り場から階下へ槍ごと投げ落した。槍は床に刺さり、クリューカスを縫いつける。それをサリアが追った。光の軌跡を残して落ちる様は正に流星。目映いばかりのそれは、誰の目にも映らなかった。気付いた頃には、消し炭と、その上に眠るサリアが其処には在った。
 


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