喰うなら喰やれ 8-1





 可能性。
 そう―――可能性を否定するには裏づけが必要だ。
 根拠を打ち出し、理由を論えて、自信を以って、可能性は否定される。
 根拠の無い言葉は妄言。
 理由の無い言葉は虚偽。
 自信の無い言葉は脆弱。
 
 可能性。
 そう―――可能性を実現するには裏づけが必要だ。
 根拠を打ち出し、理由を論えて、自信を以って、可能性は肯定される。
 根拠の有る言葉は真実。
 理由の有る言葉は理論。
 自信の有る言葉は強大。
 
 ヒトの言葉には既に根拠も理由も自信さえ無かった。
 只管に自らの未来を嘆き、ただただ、亜人の侵略に脅えていた。
 亜人に捕まったら殺される。
 女は慰みものに。
 男は食料、運が良くても奴隷に。
 誰が言ったわけで無い。
 昔からそう言われてきたことだ。
 そう言われてきて、ヒトは亜人を怖れ、彼等のコミュニティを壊し、隷属させた。
 その復讐を彼等は望んでいると、無意識に信じていた。
 帝国の王も、またその例外ではなかった。
 
 「バケモノどもは今、どの辺まで来ている」
 傍らの男に、問う。
 あくまで無礼に。
 あくまで尊大に。
 傍らの男は無機質に答える。支配者の気を荒げないこと、それが長生きの秘訣だからだ。
「一月前に聖ルーシカを襲撃した獣達はその一週間後にはクーラルを、更に同時展開していた部隊がミーリアを陥落させました。獣達はそのまま部隊をふたつに分けたまま侵攻し、ひとつは南、またひとつは北からこの首都を狙っているようです」
 速い。速過ぎる。
 いくらなんでもその速さは異常だ。
 まったく…嫌なときを狙われたものだ。
 今は領内に抱えた獣の反乱など、どうでもよい時期だった。
 隣国との戦。
 中央の兵は最低限。国境付近にしか兵はいない。呼び戻せば北側からの侵攻は抑えることが出来るかもしれない。が、南には『森』があり、兵もいない。
 今までは『森』のおかげで南側からの侵攻は無かったが、今はどうだかわからない。獣が南と結託したのかもしれない。 
 獣どもの力は呪術で抑えていた。が、どういうわけかその力を盛り返した。そしていくらなんでも侵攻速度が速過ぎる。『森』は資源に薄く、兵器等も作れないはずなのだ。
「それが…」
 男は躊躇った。それが気に喰わなかった王は男を殴りつけ、床に転げさせた。
「言え」
「はッ、はい! 獣達の主装備はおそらく北製の銃器と…その、調査不足で恐縮なのですが、新型の爆弾のようです」
「新型だと?」
「はい。なんでも前触れもなく爆発したと思ったら、城門周辺が焼け溶けているということです。そしてそれを合図の様に、獣達が攻めて来るそうです」
 見えない。前触れも無く爆発する爆弾? 城門が溶け落ちる? 何の冗談だ。
「打開策は」
「はっ、首都周辺にトラップを仕掛け、侵攻の可能性が有る街道に兵を配備、発見次第銃撃を行います」
「それだけか」
「それだけと申しま」
 男は言い切ることが出来なかった。言い切る前に王に取り込まれたからだ。王は男を頭から丸飲みにした。
「死ね。死んでしまえ。もう俺以外の者など、いらぬ」





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