喰うなら喰やれ 8-2




 知らない。
 この後、何が残るか。
 この後、何が起こるか。
 この後、何が栄えるか。
 誰も、知らない。


 だから戦う。


 この後、残るものの為。
 この後、起こることの為。
 この後、栄えるものの為。
 
 

 サリアは戦場を駆ける。
 抵抗する男は容赦なく。
 抵抗しない者は優しく。
 どちらも一瞬。
 彼等がサリアを認知出来たかは定かではない。
 一陣の風がただ過ぎただけ。
 ヒトが死ぬにはそれで充分だった。
 

 ガイアが戦場で吼える。
 抵抗できた者はおらず。
 ただ、竦む。
 彼等はガイアを見た瞬間に己が運命を悟り、絶望した。
 既にその身は一匹の竜。
 ヒトが喰われるにはそれで充分だった。


 帝国側もただやられていたわけではなかった。
 恐怖に縛られない者というのはどこにでもいる。そこに至るまでのプロセスに支障を来たしている者も、その類に含まれた。
 呪術師達は集った。
 かつて彼等が造り、彼等が縛った、彼等の子。
 躾にしくじり、暴れ出した彼等の子。
 尊属殺戮の始まりは亜人達が彼等の手を離れたとき、既に始まっていたのだ。対抗策はただひとつ。
 自らもバケモノになること。
 必要なのは何か、殺すこと。
 塵の一片も残さず、殺すこと。
 世界を侵すのはヒトであり、亜人ではない。
 霊長の長はヒトであり、亜人ではない。
 彼等が放った呪いは確かに一時は亜人を制した。
 亜人はその毒を解毒した。
 ならば更に強い毒を、呪いを以って、ヒトが亜人を殺す。
 死んでいようが生きていようが、ヒトはヒトだ。
 呪術師達は呪をかけた。
 それはいつのことだったか。
 少なくとも、亜人の侵攻が首都に迫るより、遥かに前のことだった。




  「ルガル翁、味方に大きな損害が出始めているのがわかるかい…」
「ああ、わかるさ。 同胞の血の匂いは間違えるはずが無い。 どうなってるんだ…子等の声が聞こえない」
「おにく…」 
 戦場は一瞬にして静まり返った。
 突如として、だ。
 銃器の音も、獣の咆哮も、何一つ聴こえない。
「喰われたか」
 逃げるぞ。と、一言だけ呟くと、馬人の少年を含む四人は走り出した。
 目指すは王城。
 死なば諸共。
 初めから、勝とうなどという気は無かったのだから。





 タクミは走る。
 アレに対抗する術は無い。
 少なくとも、僕達には。
 対抗できるのはサリア、お嬢ちゃん、ガイアおじさんだけだ。
 アレは、粗悪だけど機能は親父と一緒。
 切っても駄目。
 潰しても駄目。
 焼いても駄目。
 雷も駄目。
 周りの全てを飲み込んで、自分と一体化する。それが、町のヒトの数だけ。
 やってられるか!!!
 飛びかかってくる粘体達をかわしながら、走る。
 そこら中で亜人の仲間達が飲まれていく。
 アレに少しでも喰われた瞬間、自我を壊すらしい。
 叫ぶ間も無い。
 ロースは無事だ。
 併走している。
「伝令!!! 伝令ーーーーーッッッ!!!!」
 男が走りながら叫んでいる。しかしあの形相はなんだ。そこまで重大なことなのか。
「バケモノの大群が首都に向かって進攻中ーーーーーッッッ!!! 各員は速やかに王城へ退避せよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
 全力で叫びながら喰われた所為か、男はバケモノの身体から泡を噴きながら溶けていった。
 王城へ退避、か。
 どん詰まりに退避したところで、どうということは無いだろうに。
 まぁ堀があって壁が高い分マシってところだな。
「聞いた? タクミ」
「聞いたよ。 次に来てるのはおそらく今まで落とした町でできた死体達だろうな。 ここに居るのとおんなじだ」
 俺はいつ、そうなるのかな。
 今はまだ。
 だから、走った。




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