喰うなら喰やれ 8-3








 夢は夢に還る。ただ、在るがままに。現実となった嘘はただの嘘に。
 ガイアとサリアの強い願いはヒトの現への回帰。
 それはただ一言で事足りる。
 「死ね」
 不死は正しきヒトの形に非ず。絶望から生まれた狂気を二人は否定する。
 憎悪でヒトが殺せるならば、ガイアはこの世からヒトの姿を消しただろう。
 慈愛でヒトが許せるなら、サリアはこの世でヒトを殺すことはなかっただろう。
 二人は灼く。金色の光を以て幻想を灼く幻想と化す。

「意外にさ」
「何だ」
「残ってるよね、正常なヒト。特に城の中」
 飛来する無数の矢を蹴り落としつつサリアはガイアに話しかける。
「まぁ然うだろう。噂に支配され易いのは誰でも一緒だが、教養が有る分、役人等は噂には懐疑的だ。学者となればまた余計だな。それでも多数が化け物には成っているな。一度信じれば盲信的に成りやすいのも学問の徒の宿命か」
 矢を避ける気配さえ見せず泰然と廊下を進むガイア。
「全く以て迷惑な話ね。死ぬなら死ね。殺されても死にたくないなんてほんとに恥ずかしい連
中」
 攻勢に出たサリアは矢の嵐の中を跳ぶ。程なくして雨は止んだ。
 屍の山の上からサリアはガイアに言う。
「早く行きましょ。こんなつまらないこと、早く終わらせたいじゃない」

「ルガル爺、なんだコレは」
 タクミはソレから目が離せなかった。
「ヒトだ。その王ぞ」
 忌々しく声を絞り出すルガル。
「コレがヒト?笑えない冗談を言う。コレは単なるバケモノだ」
 ロースはひきつった笑みを浮かべるしかなかった。
 威容。偉容。異様。
 眼前の光景にそれぞれに感ずることは違えたが、変わらぬ感覚がひとつだけ在った。
 コレは敵だ、という認識。
 そこに居たのはただのヒトの形をした男。
 ソレはヒトの夢の具現。ヒトも亜人もかまわず喰らう最強の王。
 故にただの亜人に勝利の可能性は無い。
「遅かったじゃないか。何と遊んでいたんだ」
 発する言には呪いがかけられていた。
「すっかり待ちくたびれてしまったよ。楽にしたまえ」
 発する気には毒が混ぜられていた。
「そう硬くなってはうまくないだろう。何をするにも柔軟さは必要だ」
 発する炎には龍すら焼かれていた。
「そう、ただ何もせずに私に喰われるだけだとしてもね」
 何もできなかったのは誰も同じ。
「ルガル翁ッ!!」
 ソレは速やかに軽やかに遂行した。ただ己が成すことを成した。
 何も無かった。最期の言葉も逡巡も。
「獣の肝は美味いと聞いたのだがな、さして他と変わらぬな。まぁ爺の肝など元より美味
くはないか、ククク…」
 手の先にできた口が血を垂らしながらソレを飲み込んだ。
「…おにく…」
 それを見る少女の目は王のそれよりなお虚ろであった。そして、時は満ちた。





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック