紅い花

 衣擦れの音が闇夜に響いた。
「いいのか」と、問う男の声がそれに続いた。
「ここまで来て怖気づくのかい?」と、ころころとした声で少年は応じた。問うた男に背中を向けたその少年の体は線が細く、見様によっては少女にも見えた。
 背後の男が肩へゆっくりと置いた。
 吸い付くような、艶やかなその肌。過去、男が抱いたどんな者よりそれは身震いを誘うものだった。
「ふふふ。震えてる。ねぇ……やっぱり、怖気づいたの?」
 首を捻り、男を見上げる少年の首筋は闇夜にも白く浮かび上がり、男の目を釘付けにした。男の息は荒らかとなる一方であった。
「いい加減、なにかしたらどうだい。どうにかなりそうなのは君だけじゃないんだよ?」
 少年がそう言うが早いが、男は少年を一気に押し倒した。
 姿勢をうつ伏せから仰向けへと移し、乱暴は嫌だよ、なんてやはりころころした声で言う少年の声なんて男は聞いてはいなかった。
 まずは男の目を釘付けにしていた月の如く白い首筋、男はそこを嬲った。
 撫で、吸い付き、歯を立てるだけでは飽き足らずに歯を立てた。
 その行為を変える度に声と表情を変える少年に男はさらに情欲を掻き立てられた。
 そのうちに男の攻め立ては首から他に移り、少年の貌へと主を置くようになっていった。
 男が耳を食み、啜る際、会う前に香でも焚いたのか少年の髪からは甘い匂いがした。が、男が少年の貌を見下ろしているとその考えは違ったのだと思い直した。
 匂いの元はこの唇なのだ、と。闇夜に咲く紅い花がこの唇なら、俺が先ほど狂おしいほどに愛したものは茎なのか。と、そう獣のような笑みを浮かべたあと、男は少年の唇にしゃぶりついた。
 真実、少年の息は甘く、蕩けるような心地が男の胸に広がった。
 が、その心地を醒ますものがあった。
 少年の眼であった。
 人を小馬鹿にした眼。まるで、『この程度でもうそんなになったのかい?』なんて眼。男はそれが気に入らず、「調子に乗るなよ、小童」と、囁いた。
 茎、花、とくれば次に弄ぶのは葉と相場が決まっていた。
 先ほどからも絶えずまさぐっていた胸の粒を握り潰した。
 鋭い痛みが少年の胸に走ったはずだったが、少年はそれすらも陶然とした面持ちで受け入れた。むしろ、よりなにかを得たような、そんな貌だった。
「だらしない貌をしよって。それでも男か。まぁそれはコレが証明しているか」
 男がそれの頭を少年の腹の上で転がした。
 男根という名の通り、これが男の根であり証明である。線の細い少女の如き少年の下腹部にそそり立つそれは、少年が男であることを存分に証明していた。
 張り詰めているようなそれはそれでいてまだ張りしろを残していた。それを面白く思ったのかそれとも逆に面白くなく思ったのか、男はその頭をゆっくりとまた握りしめた。
 血の流れを制御され、少年の背には怖気に似た快感が走った。
 男はやっと満足したような笑みを取り戻したあと、位置を変え、組み伏せたままの少年の口元へとそれを無言で突き出した。突き出された男のそれは少年のそれより太く雄雄しいものであった。
 鼻先で脈動するそれにうっとりとした眼で少年は両手で触れ、口に含んだ。
 少年はそれをどうにかしようとする姿勢を見せるも、男はそれをさせまいと、腰を少年の頭へと押し付けた。また、それを抜き差しした。
 急にそんな行為をされたにも拘らず、少年はまたもすんなりとそれを受け入れ、かつ微笑んで見せた。しかもそれに合わせる様にも動いていた。
 喉を突く太いものを少年はさも愛おしいもののように奉仕した。
 そのうちに男のものにまた太さが加わり、男が更に深くものを少年の喉へ突き入れ、弾けた。
 男の目は既に野性のそれであり、迸りをただ受け入れびくりびくりと蠢く眼下の少年を既に獲物としか見ていなかった。
 拍動が落ち着くと男は少年から身を離し、布団の上にあぐらを掻いた。
 ひざを横にして、少年が遅れてよろよろと身を起こすと、口の端から男の放出した体液を布団へと伸ばしていた。
 その貌、眼はやはりまだ男を小馬鹿にしたようなものだった。
 いまやその貌に男の獣性は抑えきれず、男は少年を殴り倒した。
 殴って、倒れたところをまた殴り、それでも殴るのは顔だけで。涼やかだった顔には哀れ醜い痣ができ。それでも少年は嗤っていた。むしろそれにますます満足しているような素振りで、殴られても殴られても男に縋った。
 そのうち逆に少年が男を押し倒す形になった。屹立する男のそれに、少年は揺するように腰を合わせた。少年の笑みも既に狂気を帯びたそれであり、口からは濁った紅い液を垂らしていた。
 少年が男のそれを掴み、自らの蕾へと導いた。
 それが近づくにつれ、少年の目は見開かれ、笑みはより引き攣ったようなものへと変化していった。そして貫かれた瞬間、少年は弾けるように仰け反った。
 そして嗤った。
「くくく……うふふふ。ハハハ、ハーハッハッ!」
 打ち付けたのは狂気かそれとも自らの体か。天を目指すのは少年自らの頭だけではなく、その分身も男に見せ付けるようにそそり立っていた。
 男はもうその貌に我慢ができず、乱暴に少年の脇を掴み上下させた。
 少年は少年でそれが気に入らなかったようで、男の腕を振り切り、男から目を背け、完全に向かい合っていた最初の姿勢から逆にしていた。
 激しく動く少年の尻に男は思い切り爪を立てた。が、少年はどこ吹く風。そのまま腰を振り続けた。
 それに腹を立てたのか男が乱暴に姿勢を変え、少年を四つんばいさせ、後ろから突き刺した。
 少年の体が激しく痙攣するも、男は無視して行為を続けた。一心不乱であった。もう相手のことは一切、男は考えていなかった。ただ、自らの欲望を放つため、動いていた。
「……ハ……ゥァッ!!」
 男は搾り出したそれを少年の中へと叩き付けた。
 凡てを終えると、男は男根を少年に突き刺したまま、傍らにあった木箱に手を伸ばした。
 箱を開けると、そこには短剣があった。
 男はその鞘を外し、短剣を少年の背へと振り下ろした。
 心の臓を突き刺したそれはそのすぐのちに、見事な紅い花を咲かせた。
 そして男は自らの過ちを認識した。
 ああ、唇なんか花じゃない、と。

 ひなびた屋敷の一室で起きたその事柄。
 生き残った男は『趣味の悪い自殺に金をもらって付き合っただけだ』と証言した。

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