テーマ:文芸

紅い花

 衣擦れの音が闇夜に響いた。 「いいのか」と、問う男の声がそれに続いた。 「ここまで来て怖気づくのかい?」と、ころころとした声で少年は応じた。問うた男に背中を向けたその少年の体は線が細く、見様によっては少女にも見えた。  背後の男が肩へゆっくりと置いた。  吸い付くような、艶やかなその肌。過去、男が抱いたどんな者よりそれ…
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喰うなら喰やれ 8-4 & エピローグ

 戦士として産まれ、戦士として育った。  その自分が今、穴掘り等と言う仕事をせねば成らない。  そう思うと笑えた。  押し寄せる肉の波。  其処へ只管に光る槍で穴を穿ち続ける。  人が如何にか二人は通れそうな広さしか無い。  情けないものだった。  この広さで大変であるのだから農夫や鉱夫等はさぞ辛い職業…
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喰うなら喰やれ 8-3

 夢は夢に還る。ただ、在るがままに。現実となった嘘はただの嘘に。  ガイアとサリアの強い願いはヒトの現への回帰。  それはただ一言で事足りる。  「死ね」  不死は正しきヒトの形に非ず。絶望から生まれた狂気を二人は否定する。  憎悪でヒトが殺せるならば、ガイアはこの世からヒトの姿を消しただろう。 …
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喰うなら喰やれ 挿話乃漆 『恐怖』

始まりはなんだった。 そう、恐怖。 妄信的な、恐怖だ。 部落が存在していた。 無力で、ただの単なる部落が。 その部落を攻めた国があった。 そして、見事、その国はその部落を落とした。 部落に住んでいた者達は虜囚と化し、人とは扱われなかった。 亜人と呼ばれ、部落ごとに使用用途を定められた。 その内に、攻め落とし…
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喰うなら喰やれ 8-2

 知らない。  この後、何が残るか。  この後、何が起こるか。  この後、何が栄えるか。  誰も、知らない。  だから戦う。  この後、残るものの為。  この後、起こることの為。  この後、栄えるものの為。      サリアは戦場を駆ける。  抵抗する男は容赦なく。  抵抗しない…
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喰うなら喰やれ 8-1

 可能性。  そう―――可能性を否定するには裏づけが必要だ。  根拠を打ち出し、理由を論えて、自信を以って、可能性は否定される。  根拠の無い言葉は妄言。  理由の無い言葉は虚偽。  自信の無い言葉は脆弱。    可能性。  そう―――可能性を実現するには裏づけが必要だ。  根拠を打ち出し、理由を論えて…
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喰うなら喰やれ 7-4

 物資を補給した亜人の進軍は速やかだった。  聖ルーシカを拠点として、一月を待たずにヒトの棲家を減らしていった。  その中にいて、タクミは何を思うのだろう。ロースは時たま夜に陣からタクミとともに抜け出て、ただ星を見ていた。  タクミが口を開いた。 「亜人は怖い。そう教えられてきた」  でも、話せば人は人だ。タク…
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喰うなら喰やれ 7-3

 『少女のかたちをしたもの』は夢想する。  幸せな『世界』。  幸せな『時間』。  幸せな『空間』。  身を灼く業火は現実。  身を砕く租借は過去。  身を滅す粘液は悪夢。  ナラ何故ワタシハ此処ニ居る―――?  ワカラナイ  輪kらない  わからない  わかrんま …
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喰うなら喰やれ 7-2

   聖ルーシカにはろくな物資は残っていなかった。人とモノが無い都市は抜け殻だ。ヒトは何故か、亜人が攻め入ることを予測していた。いや、前線の都市なのだから作った時点で折り込み済みの事態か。しかしそれにしてはおかしい話だ。警備の兵はろくに抗戦もせずに逃げ出した。  あの大将が一人で勝つつもりだったのか、それともこの都市自体…
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喰うなら喰やれ 7-1

声が聞こえた。 目の前で想い人を焼かれた少女の声が。 生きながらにして身を引き裂かれた少女の声が。 子を宿した腹を裂かれ、それでも死ねぬ少女の声が。 その少女の名は――― 嫌な夢を見た。 サリアはベッドから身を起こし、外を見やった。 端整な顔の左半分を唇の端まで覆う龍の刺青が熱い。 まるで蠢く…
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喰うなら喰やれ 6-3

 「勝算は?」  サリアが傍らの武人に問うた。 「光れ」 「…は?」  間抜けな声がホールに響き渡った。 「その内に解る」 「アンタ、酒臭い。酔ってるんでしょ、ねぇ」  ガイアは無表情に答えた。 「酔っている。だが、昔馴染みを殺さねばならんのだ。酒くらいは飲ませろ」  言い終わると、槍を構え、 「続け」  短く言い…
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喰うなら喰やれ 6-2

 突然の亜人の襲撃に、セントルーシカ市衛団は決して何もしなかったわけではなかった。  市民の避難を最優先に、先鋒の部隊は既にセントルーシカから脱出。残る部隊は亜人の迎撃に当った。  しかし奮闘空しく、街は既に亜人に占拠されていた。  クリューカス、市衛団長は嘆息す。  自分が今まで育ててきた街が、豊饒の土地に巣食う亜人を蹴散…
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喰うなら喰やれ 6-1

「女を知ったのはいつだ」 「ガキの頃です。僕は昔、家畜だってんで」  相手はヒト、とは言わなかった。言わなくても通じた。 「其れは災難だったな。あんな小さなケツじゃ、お前は満足できなかったろう」  焚き火の向こうの巨大な男はそう言うと、水筒に口をつけた。 「そうでもなかったですよ、子供でしたし。まぁ成長したらポイ、…
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喰うなら喰やれ 5-3

「はてさて、今日はどういう日なんだか」  もう戻ってこないと思っていた十人の孫のうち二人が揃って戻ってきた。双方とも、招かれざる客人とともに。 「めでたい日に決まってるでしょ」  その片割れのはねっ返りがいとも気楽に言い放ってくれる。  無理を言う娘だ。ヒトの罠かもしれんと思うことは当然だろうに。  実際、『森』が…
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喰うなら喰やれ 5-2

滔々と、狂ったトカゲは語る。 造られた最初の種、その長である男は『世界』のその可能性、 その絶大なる力の生み出す未来を。 トカゲは『万能』を旨として造られた種であった。ヒトを超えた種、 それを目指して造られた、最初の亜人。 竜人とヒトは呼ぶ。 亜人はトカゲと呼ぶ。 ヒトと袂を分かった他の亜人とは違い、 トカゲはヒトの傍に…
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喰うなら喰やれ 5-1

「それで、サリアル=リーウェル。君は獣人のお姫様だったわけだけど、この扱いは何かな」 「…こっちが聞きたいわよ、そんなもの」  非常に不機嫌な声で、サリアは答えてくれた。それは当然だろう、なんたって久しぶりに会った同族に捕縛されているのだ。石造りの、ヒトでは到底脱走不可能な牢に僕とサリアは捕らえられていた。天の岩戸の如く、扉は分…
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喰うなら喰やれ 挿話乃弐 『誕生』

「で、情けをかけたってこと?」  族長が表情の読めない顔でそう聞いてきた。 「そう、なっちゃうんでしょうね」 「ふーん、喰わせちゃったんだ」 「逃げられませんよ、あれじゃ。たぶん、食べさせなかったら殺されてから喰われてました。片足だけであれならそれも簡単にやりかねませんでしたね。それ以外にも口には出せないようなすごいことされ…
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喰うなら喰やれ 4-5

 「おうち、どこ」 「この丘を越えて、ふたつみっつほど木を登ったら前にアタシの村があったところなんだけど…」  奇怪だ。 「おにく」 「ああ、おなか空いたの?そこにある木、肉だから千切って食べなさい」  奇怪だ。 「よごれた、ふく」 「アタシの服?これは生きてるから傷んだところは再生するから、大丈夫だよ」  …
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喰うなら喰やれ 4-4

「いい。それがオヤジの為になるんなら」  ここ最近、オヤジの動きがおかしい。以前から夜遅くに帰ってくることはあったが、酒に酔って帰ってくるということはまず無かった。それが、突然に。なにかあった、絶対に。それを言うと、こいつはちょっと考えた後、『一緒に来るなら、戻れないかもしれない。それでもいいの』なんて、言い出した…
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喰うなら喰やれ 4-3

 「ここら辺で休みましょうか」  『森』を抜けた後、サリアは川辺でそう提案し、 「水浴びにはちょうどいい川もあることだし」  と加えた。 「水でいいのかい。お湯にもできるよ」  発明家が軽く提案。 「ならお湯にして。できたら呼んでちょうだい。アタシは寝るから」 「ねる、ごはん」  石を焼き水溜りに入れるという…
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喰うなら喰やれ 挿話乃壱 『乳房』

 苦しんで死に行く者に、慰めは必要だろうか。  いっそ止めを刺してやるのが、せめてもの情けというものではなかろうか。  ある者は母を求め、ある者は恋人の名を叫びながら、一人また一人と逝った。  ただ一人、彼以外を除いて、皆例外なくそう死んでいった。  「おはよう」  彼は薄く目を開けた。  『元気?』とは聞け…
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喰うなら喰やれ 4-2

 『森』はどこまでも深く、暗かった。けれども獣の成体には遭わず、一行は森を抜けることとなった。  それはサリア達の知らぬところで槍を振るう、一人の男がソレを仕留めていたからであった。  鮮血。  それを浴びる男は、ガイア、その人であった。 「駄犬ども、喰らいつく相手を間違えたな」  森の中、上下左右前後、全ての…
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喰うなら喰やれ 4-1

「いいの?何も言わないで森に入っちゃって」 「問題無いわ。アレはでかいだけで、あまり役に立たないし。居ても邪魔なだけよ」  森の中を直(ひた)走る一行。その中にガイアの姿は無い。 「そういえば、なんでこんなものを体に巻いてるんですか?ていうかコレ何の毛」  ラルフがひょいと上に持ち上げたそれは、長い毛を縒った縄だった。 「…
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喰うなら喰やれ 3-4

「森に入る、かぁ」  そうかぁ、と頷きながらウェンは麺をすする。裏通りの亜人の屋台だ。味は悪くない。お嬢はそんな物は食べずに、生肉の塊を食べているけれど。 「アタシはここに留まる気は無いよ」  この町に来てから三日、既にウェンとは一応の和解は見ている。幸い、痕は残っていなかったからだ。代わりに、またひとつ体にタトゥ…
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喰うなら喰やれ 3-3

 娘が目を覚ました。とりあえず、声をかけてみる。 「おはようさん」  言ってから後悔。口調が砕けすぎている。癖だ、どうにも直らない。 「死ね」  …口の悪い娘のようだ。 「アタシをこんな風に鎖につなげて、これから何をするつもりよ。まさか―――」  そして妄想力も豊かだ。本人の人格を尊重して聞き流す。いや、そこをじ…
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喰うなら喰やれ 3-2

「………ッ!!」  サリアは不埒者を一撃の下に沈めた。これで今日はもう三人目である。  裏通りの更に裏通りを、サリア達は歩いていた。表通りは自分一人では兎も角、この娘と一緒では目立ち過ぎて歩けない。仕方なくこのような道を歩いているわけだが、それにしても聞きしに勝る劣悪さだ。ここはヒトの町だ。しかし、この通りで目に入る…
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喰うなら喰やれ 3-1

「電文に依りますと、そろそろ例の亜人の群れがこの町に到着する頃ですが、警備はいかが致しましょう」 「捨て置け」 「捨て置く?それは何故ですか」 「獣人一匹と翼人一匹で何をどうこうできるという訳でもない。森へ向かっているのなら尚更だ。せいぜい戦の下火になってもらうとしよう」 「下火、ですか」 「そいつ等が森の…
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喰うなら喰やれ 2-3

 その夜、響くは断末魔。  部下の報告を受け、館の主人は重い息を吐いた。 「取り逃がした、か…」  後に、歯軋り。憤慨してのことではない。絶望的なるこの状況の中で少しでも落ち着こうという努力からだ。 「しかし」  呟く。逃したのは二人。それは小鹿亭に居た娘達であろう。では、あの大男はどうなったのか。あの娘達にあれが…
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喰うなら喰やれ 2-2

 銀色の風が闇を凪ぐ。森中に響く何者かの断末魔。この日、帝国領のその森では、帝国兵士による山狩りが行われていた。本来、狩られるのは獲物の方である。が、今宵は少々平時と趣が違った。その獲物は、ヒトが狩るには少々凶暴すぎたのだ。逆に猟師である筈の兵士達が狩られていた。  命を奪われ、その魂の抜殻は喰われた。獲物の正体は依然として掴…
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喰うなら喰やれ 2-1

テーブルの向かい側には馬鹿みたいに体のでかい男。その腕にしがみ付いて…と言うより噛り付いて食べているのは、翼を生やした少女。変な面子だ。 「状況を整理したい」 「どうぞ」 「まず…お前等は何だ」  男は人のことを親の仇でも見るような目で睨んできた。 「アンタこそ誰よ」  アタシはわざと、視線を流しつつそう言った…
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